善光寺の御詠歌(巡礼歌)一覧
『日本歌謡集成』第4巻(昭和3年/高野辰之 編)に掲載されている善光寺の御詠歌です。一部訂正した箇所があります。下段は読み方ですが『善光寺御詠歌』(昭和14年/大八木興文堂 発行)などを参考にしました。
ここで紹介するのは全部で21番までありますが、管見の限りでは全15番・全18番の御詠歌もあります。
【15番本】は全15番の『善光寺如来御詠歌』(明治19年/関安之助 編)の翻刻と解釈です。参考のために付けました。
第1番
埋もれて 難波の池の 弥陀如来 背に負ひます 本田義光※
うずもれて なにわのいけの みだにょらい せなにおいます ほんだよしみつ
メモ:※本田義光(ほんだよしみつ)難波の堀江で善光寺如来を迎えた。善光寺開山。
【15番本】
一ばん/うづもれて なんばの池の みだによらい さかいこかれて ほんだよしみつ
埋もれて 難波の池の 弥陀如来 せかいこがれて※ 本田義光
メモ:※せかいこがれて…「世界焦がれて」か。
第2番
心ざす※ 国は信濃の 辺にて 臼に据ゑます これぞ淋しき
こころざす くにはしなのの ほとりにて うすにすえます これぞさびしき
メモ:※志すの意か。
【15番本】
ニばん/心こそ 国はしなのゝ ぜんかふじ うすへすゑおき これぞさびしき
心こそ 国は信濃の 善光寺 臼へ据え置き これぞ淋しき
第3番
身はこゝに 心は信濃の 善光寺 導きたまへ 弥陀の浄土へ
みはここに こころはしなのの ぜんこうじ みちびきたまえ みだのじょうどへ
【15番本】
三ばん/身はこゝに こゝろはしなのゝ ぜんかふじ みちびきたまへ みだのじやうどへ
身はここに 心は信濃の 善光寺 導きたまえ 弥陀の浄土へ
第4番
曇りなき 身は晴れやらん 弥陀如来 御判いたゞく 極楽の印
くもりなき みははれやらん みだにょらい ごはんいただく ごくらくのいん
【15番本】
四ばん/くもりなき 身ははれやかな ぜんかふじ 御はんいたゞく ごくらくのゑん
曇りなき 身は晴れやかな 善光寺 御判いただく 極楽の縁
第5番
山谷を はるばる越せば 善光寺 この世あの世の 土産血脈
やまたにを はるばるこせば ぜんこうじ このよあのよの みやげけちみゃく
【15番本】
五ばん/やまたにを はるばるこせば ぜんかふじ あの世この世の みやけけちみやく
山谷を はるばる越せば 善光寺 あの世この世の 土産血脈
第6番
義光の 弥生※は花よ 親も子も たゞ人ならぬ 仏なるらん
よしみつの やよいははなよ おやもこも ただひとならぬ ほとけなるらん
メモ:※弥生の前(やよいのまえ)本田義光の妻。
【15番本】
六ばん/よしみつの やよひの花を おやと子に たゞ人ならん ほとけなるらん
義光の 弥生の花を 親と子に ただ人ならん 仏なるらん
第7番
遠くとも 一度は参れ 善光寺 救け給ふぞ 弥陀の誓願
とおくとも いちどはまいれ ぜんこうじ たすけたもうぞ みだのせいがん
【15番本】
七ばん/とほくとも 一度はまいれ ぜんかふじ すくひたまふは みだのせいくわん
遠くとも 一度は参れ 善光寺 救い給うは 弥陀の誓願
第8番
若きとて 末を長きと 思ふなよ 無常の風は 時を嫌はず
わかきとて すえをながきと おもうなよ むじょうのかぜは ときをきらわず
【15番本】
八ばん/わかきとて すへをなかきと おもふなよ むじやうの風は ときをきらはぬ
若きとて 末を長きと 思うなよ 無常の風は 時を嫌わぬ
第9番
一度は 消ゆる命と 思ふなよ 罪造るなよ 後の世の為
ひとたびは きゆるいのちと おもうなよ つみつくるなよ のちのよのため
【15番本】
九ばん/ひとたびは しぬるいのちと おもひなば 後生ねがへよ のちの世のため
一度は 死ぬる命と 思いなば 後生願えよ 後の世のため
第10番
明日ありと 思ふ心の 仇桜 夜の嵐は 吹かぬものかは
あすありと おもうこころの あだざくら よるのあらしは ふかぬものかは
【15番本】
十ばん/あすありと おもふこゝろは あださくら よるはあらしの ふかぬものかわ
明日ありと 思う心は 仇桜 夜は嵐の 吹かぬものかわ
第11番
弥陀頼む 心のうちは 曇りなき 仏も去らぬ 身をも離れず
みだたのむ こころのうちは くもりなき ほとけもさらぬ みをもはなれず
【15番本】
十一ばん/ごくらくの みのりのふねに のりたくは むねのあいだの なみをしつめよ
極楽の 御法の船に 乗りたくば 胸の間の 波を鎮めよ
第12番
急げ人 弥陀の御船の 通ふまで 乗り遅れなば いつか渡らん
いそげひと みだのみふねの かようまで のりおくれなば いつかわたらん
【15番本】
十二ばん/いそけ人 みだのみふねの かよふまに のりおくれなは たれかわたさん
急げ人 弥陀の御船の 通う間に 乗り遅れなば 誰が渡さん
第13番
極楽へ つとめて早く 出でたなら 身の終わりには 参るものなり
ごくらくへ つとめてはやく いでたなら みのおわりには まいるものなり
【15番本】
十三ばん/ごくらくへ ねがふてはやく 生るべし 如来のまへで おれいもふせよ
極楽へ 願うて早く 生まるべし 如来の前で 御礼申せよ
第14番
唱ふれば こゝに居ながら 極楽の 衆生の数に 入るぞ嬉しき
となうれば ここにいながら ごくらくの しゅじょうのかずに いるぞうれしき
【15番本】
十四ばん/となふれは こゝに居ながら ごくらくの ほとけのかすに いるぞうれしき
唱うれば ここに居ながら 極楽の 仏の数に 入るぞ嬉しき
第15番
先立てば 後れる人を 待ち合わせ 花の台に 名をばのこして
さきだてば おくれるひとを まちあわせ はなのうてなに なをばのこして
【15番本】
十五ばん/さきだゝは おくるゝひとを まち合せ 花のうてなに ともにじやうぶつ
先立たば 遅るる人を 待ち合わせ 花の台に 共に成仏
第16番
ありがたや 玉の簾を 巻き上げて 念仏の声を 聞くぞ嬉しき
ありがたや たまのすだれを まきあげて ねんぶつ※のこえを きくぞうれしき
メモ:※字数を合わせるため「ねぶつ」と読む例もあり。
第17番
阿弥陀ほど 慈悲な仏は なけれども 頼まぬ者は 救ひ取られず
あみだほど じひなほとけは なけれども たのまぬものは すくいとられず
第18番
極楽の 鐘の響きに 目を覚まし 五色の雲に 添うぞ嬉しき
ごくらくの かねのひびきに めをさまし ごしきのくもに そうぞうれしき
第19番
待ちかねて 歎くと告げよ 皆人に いつもいつとて 急がざるらん
まちかねて なげくとつげよ みなひとに いつもいつとて いそがざるらん
第20番
いさのうみ※ 清き流れの あらはれて 我は濁らぬ 水に宿らん
いさのうみ きよきながれの あらわれて われはにごらね みずにやどらん
メモ:※いさのうみ…「功の海」か。功(いさお)は功徳のこと。なお『玉葉集』に「いせのうみの きよきなきさは さもあらはあれ われはにこれる みつにやとらむ」という歌が収載されている。
第21番
法の船 知るも知らぬも 渡すべし 西へ行くべき 船の便りに
のりのふね しるもしらぬも わたすべし にしへゆくべき ふねのたよりに